線路が敷設されることのなかった空間は、荒れ果てるに任されていたわけではない。兵庫県と徳島県、そして本州四国連絡高速道路(JB本四高速)は、この頑強なインフラを地域資源として再利用する道を模索し続けてきた。
その最初の結実が、2000年4月にオープンした徳島県立の遊歩道「渦の道」である。新幹線を通すために造られた広大な下層トラス構造のうち、徳島側の約450メートルを整備し、鳴門海峡の上空約45メートルから激しい渦潮を真下に見下ろせる観光施設へと生まれ変わらせた。床面の一部に設けられた強化ガラス越しに渦潮を観察できるスリルは国内外の観光客を惹きつけ、今や鳴門を代表する名所として定着している。
さらに現在、この鉄道遺産とも呼ぶべきスペースに新たな命を吹き込んでいるのが大鳴門橋自転車道化プロジェクトである。鳴門海峡を自転車で渡破できるようにするこの事業は、淡路島を一周する人気サイクリングルート「アワイチ」と、徳島県側の「トクイチ」を直結させ、瀬戸内エリアを世界水準のサイクルツーリズム拠点へと引き上げる構想だ。
自転車道の整備においては、本来新幹線の重圧を支えるために計算されたトラス橋の耐力を活かし、強風対策のフェンスや路面が計画的に施工されている。かつて時速260kmの列車が駆け抜けるはずだった空間が、時速20km前後で旅人が風を感じながらペダルを漕ぐスローモビリティの回廊へと姿を変えつつある事実は、日本のインフラ利活用における極めて象徴的な転換点といえる。