生前のやなせたかしが描く物語には、常に「光と影」のテーマが根底に流れている。児童文学としてのアンパンマンワールドにおいて、雪の女王は単に倒されるべき「悪」ではなく、人間が抱く「孤立への恐怖」や「不変への執着」の象徴だ。自分を捧げて他者を助けるアンパンマンの「温かさ(顔のあんこ)」に対し、すべてを凍らせて変化を止める「冷たさ」という対比構造は、著者の緻密な計算に基づいている。
制作陣の間で語り継がれる裏設定によれば、彼女の冷酷さは傷つくことを恐れた心の防衛本能の表れでもあるという。大人が鑑賞した際にも耐えうるこの深い心理描写こそが、時代を超えて作品が愛され続ける最大の理由にほかならない。