今日、あらゆるジャンルで濫用されるこの言葉の起源を辿ると、日本のSFアニメ史におけるひとつの金字塔に突き当たる。アニメ監督の富野由悠季が手がけた1999年の作品『ターンエーガンダム』だ。当時、アニメーション制作会社の株式会社サンライズが展開した同作において、「黒歴史」とは劇中における過去の戦争惨禍や文明消滅の記録を指す作中用語であった。あらゆるガンダム作品の歴史を包括・全肯定するという大胆なコンセプトのもとで提示された概念だったのである。
しかし、劇中の哲学的な響きを離れ、視聴者の間では「なかったことにしたい恥ずかしい過去」を指す隠語として瞬く間に伝播した。サブカルチャーの文脈で一人歩きを始めた言葉は、掲示板やSNSを通じて広く拡散。現代ではカルチャー全般のタブーや暗部を記録したリストを形容する言葉として定着している。作中における宇宙規模の悲劇が、個人の恥部や業界の失敗談と同義で語られるようになったプロセスの滑稽さこそ、現代インターネット文化のアイロニーと言えるだろう。