肥満と腹水は、一見するとどちらもお腹が横や下に張り出して見えるため、日常的に観察している飼い主ほど見誤りやすい傾向があります。しかし、両者の身体的特徴を冷静に観察すると、明確な差異が存在します。
最も明確な違いが現れるのは、猫の腹水の触感と水風船のような感触です。通常の肥満であれば、お腹に触れた際に皮下脂肪特有の柔らかさや、低反発枕のような弾力性を感じます。これに対し、腹水が溜まっている場合は、薄いゴム膜の中に水を入れた「水風船」や「生温かいウォーターベッド」を触っているかのような、流動性のあるタプタプとした波動感を指先に感じ取ることができます。
次に確認すべきは、全身の筋肉・骨格とお腹のバランスです。肥満の猫は背中、腰回り、首の後ろなど全身にまんべんなく脂肪がつき、上から見ると寸胴や樽のような滑らかな楕円形を描きます。一方、腹水を患っている個体では、背骨が浮き出るのに腹水で太って見えるという残酷な矛盾現象が起きます。重篤な内科疾患によって筋肉が削ぎ落とされる「悪液質(カヘキシー)」が進行するため、背骨や肋骨はゴツゴツと浮き彫りになり、手足は痩せ細っているにもかかわらず、下腹部だけが異様に洋なし型に垂れ下がるのです。
また、猫特有のたるんだ皮膚である「プライモーディアルポーチ(ルーズスキン)」との識別も欠かせません。ルーズスキンは後肢の付け根付近の皮膚が柔らかく垂れ下がっているだけであり、内部に張力はなく、つまんでも痛みを感じることはありません。対して腹水の場合は、内部から強い圧力でお腹の皮が突っ張っており、横臥した際に液体が重力に従って左右へ流れる特徴があります。