歴代首相の暗殺・襲撃事件に関しては、ネット上や一般の言説においていくつかの事実誤認が見られます。歴史の真実を精緻に検証します。
誤解1:「伊藤博文は現職総理大臣として暗殺された」という誤り
歴史の授業等で強烈な印象を残す伊藤博文の暗殺ですが、事件発生時の伊藤は現職の総理大臣ではありません。初代韓国統監を退任した直後の枢密院議長という立場であり、第4次伊藤内閣の退陣からは約8年が経過していました。近代日本で「現職首相のまま命を奪われた」のは、原敬、濱口雄幸(襲撃翌年に死亡)、犬養毅の3名のみです。
誤解2:「暗殺テロによって犯人の望む政治体制が実現した」という錯覚
多くの実行犯は「腐敗した政治家を排除すれば、国家が刷新され民衆が救われる」という短絡的な義憤に駆られていました。しかし、歴史の冷徹な事実は正反対の結果を示しています。原敬の死は政党政治の自浄作用を奪い、犬養毅や高橋是清の死は軍部の独走を抑止する最後の防壁を破壊しました。暗殺という手段は、例外なく社会の言論空間を委縮させ、より強権的で非民主的な体制への移行を招く結果しか生み出していません。