「最初は濃すぎて驚いたが、3日経つと無性にあの味が恋しくなる」。こうした声に代表されるように、弁松の折詰弁当には不思議な中毒性が潜んでいる。甘さも辛さも限界まで引き上げられた煮物や玉子焼きは、時間を置くことで材料の奥深くまで味が染み込み、時間が経つほどにまろやかなコクへと変化を遂げる。
経木(きょうぎ)で仕切られた木箱に整然と並べられた江戸前料理の品々は、視覚的にも美しく、保存性を高める江戸の知恵が凝縮されている。一口ごとに広がる秘伝の濃い出汁と醤油の余韻。一度このディープな旨味の虜になった者は、他店の穏やかな弁当では物足りなさを感じる身体になってしまうのだ。