杉元のトレードマークである顔面の斜めに走る深い二本の傷をはじめ、彼の全身には無数の銃傷や刺し傷が刻まれています。これらの傷の多くは、日露戦争の中でも最も過酷を極めたとされる旅順攻囲戦・二百三高地の激戦で負ったものです。仲間が次々と肉塊に変わる地獄のような塹壕戦を生き延びた経験は、彼の心に深いトラウマと「自分だけが生き残ってしまった」という罪悪感を植え付けました。
彼を金塊探しへと駆り立てた原動力は、戦死した無二の親友・寅次(とらじ)との約束でした。寅次の妻であり、かつて杉元自身も深く愛していた幼馴染の梅子は、病によって視力を失いかけていました。莫大な費用がかかる最先端の眼科治療を海外で受けさせるため、杉元は北海道で一攫千金を狙い、アイヌの埋蔵金の噂にたどり着いたのです。
物語の随所で描かれる「干し柿」にまつわるエピソードは、杉元の哀愁と人間らしさを象徴しています。「干し柿を食べたら、戦争に行く前の自分に戻れる気がする」と語る杉元にとって、梅子と過ごした故郷の素朴な記憶こそが、戦場で失いかけた人間性を繋ぎ止める最後の希望でした。