映画の冒頭を飾る『アシタカせっ記』の最初の数小節を聴くだけで、空気が一変する。日本の伝統的な五音音階の哀愁をたたえながら、それを分厚い西洋管弦楽のダイナミズムへと昇華させる久石の手腕は圧巻だ。
運命に翻弄され、村を追われる若きエミシの旅立ち。ホルンの重厚なファンファーレが遠く鳴り響き、ストリングスが押し寄せる波のように感情を煽る。単なるヒロイズムではなく、呪いを背負った者の哀しみと覚悟が、重層的なハーモニーのなかに溶け込んでいる。映画を観終えた後も、この旋律が頭から離れないのは、私たちが生きる現実の厳しさとどこかで共鳴しているからにほかならない。