1960年、安保闘争で激しく揺れ動いた社会の分裂を修復するため、誕生したばかりの内閣が打ち出したのが「所得倍増計画」だった。国民所得を10年で2倍にするという前代未聞の数値目標は、当時「夢物語」と冷ややかに囁かれた。だが、近年の公文書整理や遺族から発見された未公開の書簡資料、当時の側近たちが遺した音声データは、異なった決断の裏側を浮かび上がらせている。
新資料が物語るのは、彼が単に高度経済成長の波に乗っただけではないという事実だ。各省庁の猛反発を押し切り、民間投資の誘発とインフラ整備への集中投下を強行した。市場の自律的エネルギーを信じつつ、減税と財政出動を絶妙なタイミングで組み合わせた手腕。2026年の視点から分析すれば、その決断の本質は、国民の中に渦巻いていた不安を「成長への確信」へと鮮やかに書き換えた心理力学の応用でもあった。