家庭で海老を揚げた際、衣の中で無残に丸まってしまったり、鍋から突如として油が激しく飛散したりする現象には、明確な科学的理由が存在します。料理研究家や調理科学の専門データによると、海老の身を構成するタンパク質は約50℃〜60℃で凝固を始め、65℃を超えると筋線維が長軸方向へ急激に縮退する特性を持っています。
とりわけ海老の腹側には、海中を素早く泳ぎ後退するための強靭な屈筋(腱組織を含む筋線維)が集中しています。この腹側の筋肉は背側の筋肉よりも収縮力が圧倒的に強いため、何の処理も施さずに高温の揚げ油へ投入すると、腹側の筋肉が背側を引っ張り込み、弓なりに丸まって身が縮んでしまうのです。仕上がりの全長が半分近くに縮退し、衣ばかりが目立つ不格好な海老天になってしまうのは、この収縮力の差を解除していないことが原因です。
一方、調理者を恐怖に陥れる「激しい油跳ね」の正体は、海老の尻尾にある構造的な水分の閉じ込めにあります。海老の尾扇(びせん)や、尻尾の中心にある鋭い棘状組織「尾剣(びけん)」の内部には、海水中を泳ぐための体液や汚れを含んだ水分が袋状に溜まっています。175℃を超える油中に水滴が混入すると、水分は一瞬にして約1700倍の体積を持つ水蒸気へと相転移し、周囲の油を巻き込んで小規模な水蒸気爆発を引き起こします。これが油跳ねの真実であり、外側の水分をキッチンペーパーで拭き取っただけでは防げない決定的な盲点なのです。