雷電にまつわる最も有名な逸話といえば、あまりの威力ゆえに相手力士の命を奪いかねないとして課されたとされる「禁じ手(四重封印)」の伝説だ。張り手、閂(かんぬき)、突っ張り、掛け投げの4つの技を禁じられたまま土俵に立ち続けたというエピソードは、ファンの間で長年語り草となってきた。だが、近年の相撲史研究によって、この伝説の裏に潜む実態が徐々に解明されてきている。
日本相撲協会の所蔵史料や当時の相撲記録を紐解くと、公的なルールとして特定の力士だけに技の使用を禁止する通達が出されたという公式文書は確認されていない。真相はむしろ、雷電を抱えていた雲州松江藩の配慮や、相手を破壊しかねない自分の怪力を恐れた雷電自身の「自主的な自制」、あるいは興行主側による暗黙の申し合わせであった可能性が高い。相手を壊してしまっては興行が成り立たない。最強であるがゆえに自らを縛らざるを得なかった男の苦悩こそが、後世に「技の封印」というドラマチックな伝説として昇華されたのだ。