一方で、美化された偶像を徹底的に拒み、人間の滑稽さや生々しさを丸ごと提示してみせたのが樹木希林だった。彼女の演技は予定調和を嫌い、共演者との予測不能なやり取りのなかで即興的に真実を手繰り寄せる。是枝裕和監督作品に代表される濃密なヒューマンドラマにおいて、樹木が見せた日常の機微や老いのリアルは、観客の胸を深くえぐった。
老舗映画雑誌『キネマ旬報』の歴代ランキングや批評空間においても、樹木希林が遺した足跡は別格の輝きを放ち続けている。飾らない言葉で本質を突き刺すインタビューの数々は、単なる演技論の枠組みを飛び越え、表現者がいかに生きて表現と向き合うべきかという人生訓として今も読み継がれている。