「あいにく」はビジネスの断り文句として多用されますが、敬語表現としての位置づけを誤ると相手を不快にさせる要因になります。特に目上の人や取引先に対して使う際は、次の3つの落とし穴を把握しておくべきです。
まず第一に、「あいにく」という単語自体は敬語ではないという点です。単なる副詞に過ぎないため、目上の人に対して「あいにくできません」「あいにく都合が合いません」と言い放つと、非常にぶっきらぼうで不敬な印象を与えます。クッション言葉として用いる場合は、必ず「あいにくではございますが」「あいにくですが」とし、後続の文章を丁寧な敬語で結ばなければなりません。
第二に、語源の「運悪く間が悪い」というニュアンスが、重大なトラブルやミスのお詫びでは「責任逃れ」に聞こえてしまう点です。自社に非があるクレーム対応などで「あいにく在庫が切れておりまして」と返答すると、「たまたま運が悪かっただけ」と開き直っているように受け取られかねません。自社の過失である場合は「あいにく」を避け、「こちらの不手際により、深くお詫び申し上げます」と真摯に謝罪するのが鉄則です。
第三に、公文書や改まったビジネスメールでは、漢字の「生憎」ではなく平仮名で「あいにく」と表記するのが一般的なビジネス慣例です。「生憎」の文字面は「生きて憎む」とも読めるため、視覚的に冷たく硬い印象を与えてしまいます。相手への配慮を示すクッション言葉だからこそ、平仮名で柔らかく表記するのが好ましい作法です。