医療現場や消防庁の指導において、ハイムリック法に関する最も強い警告が発せられているのが「乳児(1歳未満)および妊婦に対する実施」です。SNSや一部の不正確なまとめ情報では「窒息したら誰にでもまずハイムリック法」という短絡的な誤解が見受けられますが、これは極めて危険な認識です。
乳児の腹壁は極めて薄く、肝臓や脾臓などの実質臓器が成人よりも下方に位置しています。この発達段階の乳児に対して強い腹部圧迫を加えると、肝破裂や内出血など致命的な内臓損傷を引き起こします。1歳未満の乳児が誤嚥を起こした際は、救護者の腕にうつ伏せに乗せて頭を低く支える「背部叩打法」と、仰向けにして指2本で胸骨を押す「胸部突き上げ法」を交互に行うのが標準プロトコルです。
また、妊娠後期の女性に対して腹部突き上げを行うと、子宮圧迫による胎盤早期剥離や胎児循環不全を招く危険があります。妊婦や胴回りが大きく腕が回らない高度肥満者に対しては、腹部ではなく胸骨下部を後方に押し込む「胸部突き上げ法」、または「背部叩打法」を選択しなければなりません。
さらに、成人にハイムリック法を実施して異物除去に成功した場合であっても、強い外力によって胃壁の挫傷や腹腔内出血などの合併症が生じている可能性があります。「喉のものが取れて呼吸が楽になったから大丈夫」と自己判断せず、実施後は必ず救急外来や消化器内科を受診して医師の診察を受けることが救急医療ガイドラインで強く義務付けられています。