近年、先端テクノロジー企業や防衛関連産業の契約書で、ある条項の復活が目立つ。「重要データの引き渡しは、暗号化ハードウェアの手交によるものとする」という指定だ。クラウドストレージ全盛の時代に、あえて対面手交を選ぶ逆転現象が起きている。
どれほど強固な暗号をかけても、ネットワークに接続されている限り、ゼロデイ脆弱性や量子コンピューティングによる解読リスクをゼロにはできない。しかし、スタンドアローンの記憶媒体を対面で手交し、その場で受領書を取り交わすプロセスの傍受は、物理的な接触がない限り原理的に不可能だ。
最先端のAI開発現場でも、基幹アルゴリズムのソースコード受け渡しに手交が採用される事例が増えている。最もハイテクな世界が、最終的なセキュリティ担保として「生身の人間の手」という最もローテクな手段に依存している現実は、実に示唆的だ。