世界規模の疫学調査を俯瞰すると、「睡眠時間が長いほど健康」という単純な図式は完全に否定されている。米国・欧州・アジアを含む100万人超の被験者を追跡したメタ解析では、睡眠時間と総死亡率の関係は明確なU字カーブを描いた。最も死亡リスクが低かったのは7時間前後。ここを底として、睡眠時間が短すぎても長すぎてもリスクは上昇に転じる。
とりわけ注目すべきは、8時間を超えたあたりから心血管疾患の発生率と総死亡リスクがじわじわと上がり始める点だ。一部の研究では、8時間睡眠のグループは7時間睡眠のグループに比べ、心疾患による死亡リスクが約1.1〜1.3倍になるという数値も示されている。もちろん「長く眠ること自体が直接死因になる」わけではなく、背景にある持病やうつ症状、運動不足、社会的孤立などの交絡要因を慎重に調整した上でも、なお残る統計的な関連性があるという意味だ。
ハーバード大学の研究グループによる睡眠と寿命に関する報告でも、「7〜8時間の範囲で睡眠を確保している集団が最も健康寿命が長い」とされつつ、8時間を大きく超える睡眠は炎症マーカーの上昇や代謝異常と関連すると指摘されている。睡眠は「長さ」より「適正域」がすべてなのだ。
このデータが意味するのは、「8時間寝れば安心」ではなく、「7時間前後で十分な睡眠休養感を得られるかどうか」が健康の分水嶺になるということだ。8時間にこだわるあまり睡眠の質を犠牲にしている人は、むしろ逆効果になりかねない。