日本の山間部や古い漁師町を訪れると、驚くほど同じ苗字の家が並んでいることに気づく。ある村では住民の8割が「佐藤さん」であり、隣の集落では全員が「渡辺さん」といった具合だ。郵便配達員や役場の職員でさえ、フルネームだけでは個人を特定するのが難しい。こうした状況で機能してきたのが屋号だ。
明治時代にすべての国民が苗字を持つようになる前、庶民は公的な姓を持たなかった。しかし、日常生活や年貢の取り立てにおいて家を区別する必要があったため、それぞれの家系に固有の呼び名がついた。これが屋号のルーツである。戸籍制度が確立された現代でも、田舎のコミュニティではこの非公式な名前が生活のインフラとして機能し続けている。