都市開発の専門家たちは長年、老朽化した雑居ビルを「防災上のリスク」や「景観を損ねる負の遺産」として片付けてきた。確かに、耐震性やアクセシビリティの観点から見れば、古い建物には課題が多い。だが、すべてを更地にして巨大複合施設へと建て替える手法が、結果として街の固有性を奪い、どこに行っても同じ風景を生み出してきたのもまた事実だ。
建築史家のひとりは、近著のなかでこう指摘している。「都市のイノベーションは、清潔で管理されたオフィスビルからは生まれない。家賃が安く、多少の無茶が許され、異なるジャンルの人間が偶然ぶつかり合う『薄汚れた隙間』からしか、本物のカルチャーは発芽しない」
いま起きている現象は、徹底的にスマート化された2026年の社会が、自ら切り捨てたはずの「隙間」を必死に買い戻そうとしている皮肉なプロセスなのかもしれない。