文章に文法があるように、音楽にも厳密な文法が存在する。例えば「変ト長調(Gフラット・メジャー)」というキーを考えてみよう。このスケール(音階)を構成する音を順番に並べると、以下のようになる。
G♭ - A♭ - B♭ - C♭ - D♭ - E♭ - F
ここでもし「C♭」の代わりに「B」と表記してしまうと、スケールの中に「B♭」と「B」という2種類の「B(シ)」が混在することになる。一方で「C(ド)」の音がひとつも存在しないという歪みが生じるのだ。楽譜を読むミュージシャンにとって、ひとつの線や隙間に同じアルファベットの変形が重複して並ぶのは読譜のストレス以外の何物でもない。
「ドのフラット」と書くことは、単なる理屈っぽいルールではない。楽譜の視認性を保ち、メロディがどこへ向かおうとしているのかを演奏者に直感的に伝えるための、先人たちの知恵なのだ。