風が吹き抜ける港町の片隅で、その物語は静かに始まった。陸少年は半年前から学校へ行けなくなり、自宅の部屋で塞ぎ込む日々を送っていた。家族との会話も途切れがちになり、家族全員が出口の見えない暗闇の中にいたという。
状況が一変したのは、2026年1月の夕暮れ時だ。家の裏手にある古い小屋の陰で、泥にまみれ、足を少し引きずった一頭の雑種犬が震えていた。首輪はなく、衰弱しきった目。少年は黙って自分の部屋から毛布を持ち出し、犬の体にかけた。犬は警戒することもなく、ただ静かに少年の手に冷たい鼻先を寄せたという。
「あの日、息子が半年ぶりに口を開いたんです。『僕がこの子を守らなきゃ』って」。陸少年の母親は目元を拭いながら振り返る。言葉を介さないふたつの魂が、互いの孤独を察知した瞬間だった。