「体調が悪くなったら、現地のドラッグストアで薬を買えばいい」という考え方は、旅慣れたバックパッカーであっても極めて危険な賭けとなります。トラベルクリニックの医師や渡航医学の専門家が異口同音に警鐘を鳴らす最大の要因は、海外現地薬局リスクにおける「体格差に起因する薬効過多」と「成分規格の根本的な相違」です。
欧米諸国で市販されている解熱鎮痛剤や抗ヒスタミン薬は、大柄な成人男性(体重80kg〜90kg超)の骨格を前提に処方設計されているものが珍しくありません。例えば、一般的な解熱鎮痛剤に含まれるイブプロフェンの単回投与量は、日本の市販薬では150mg〜200mgが上限ですが、アメリカのドラッグストアで棚に並ぶ標準的な錠剤は1錠あたり400mg、高容量タイプでは800mgに達します。平均体重が欧米人に比べて20kg以上軽い日本人がこれを服用した場合、急性胃潰瘍や激しい肝機能障害、極度の血圧低下を引き起こす危険性があります。
さらに見過ごせないのが、言語の壁による誤飲トラブルと、新興国における偽造医薬品の蔓延です。激しい腹痛や高熱に苛まれる中で、外国語でびっしりと書かれた外箱の注意書きや禁忌事項を正確に読み解くのは困難を極めます。世界保健機関(WHO)の報告データでも示されている通り、東南アジアや中南米、アフリカの一部地域では、正規に見える薬局であっても流通する医薬品の約10〜30%に有効成分が含まれていないか、不純物が混入した偽造薬(カウンターフィット薬)が紛れ込んでいる現実があります。慣れ親しんだ自国の薬を携行することは、健康管理のみならず命を守るための基本防衛策といえます。